平成28年度

活動実績
 

シンポジウム・セミナー・ワークショップ

共同研究


国際連携小惑星探査による初期太陽系内における揮発性物質の進化過程の調査

Investigation on the evolution processes of volatiles in the early Solar System based on joint international asteroid explorations

系外惑星系の多様性の探究

Quests for diversity of exoplanetary systems

初期惑星系における物質の起源と循環:太陽系科学および系外惑星科学の相乗効果

Origin and circulation of materials in early planetary systems: Synergy between the solar and extrasolar system sciences

共同研究における打ち合わせなど

地形モデル講習会

2016年12月

開催地:日本、東京、本郷

ドイツDLR-宇宙研の地形モデル打合せ

2016年9月

開催地:日本、相模原

研究協力体制の構築

惑星科学研究には、理論的背景となる惑星形成理論、観測装置の基礎開発と実機への実装、膨大なデータを蓄積・処理するシステムの開発、探査機あるいは望遠鏡を用いた観測によるデータの取得、詳細かつ多様なデータから対象天体内の進化過程を推定するための解析手法、など、極めて広範な知識と能力が必要です。研究交流事業の第1年目の平成28年度には、これら広範な専門性を持った若手研究者を国内から広く集めて、相手国との研究協力に参画する準備を整えるため、国内の大学院生や博士研究員を対象としたPlanet2サマースクール(整理番号S-1)を飛騨高山にて開催しました。そこでは、国内の若手研究者が、最先端の広汎な知識を世界トップクラスの研究者から系統的に学ぶと共に自らの研究をアピールして共同研究のきっかけをつかんでもらうことを目的としました。結果として、多くの共同研究がベルン大学(11/10-12/17)、ハワイ大学(9/4-9/22)、プリンストン大(1/21-1/31)へ若手研究者の派遣を契機にスタートさせることができ、当初目標が達成できました。

引き続き、日本の宇宙科学研究所に欧米から40人を超える研究者を迎えて、はやぶさ2の研究会(整理番号 S-4)を開きました。そこでは、日本の旗艦惑星探査機である はやぶさ2の運用状況などのブリーフィングに加えて、取得予定データの共同解析についての議論、若手交流についての議論などが活発に行われました。平成29年度以降に本格化させる若手派遣に向けた具体的な準備活動を始動させました。ここでは、はやぶさ2のデータに興味を持つ海外研究者に日本の若手を売り込んで、共同研究を活性化することができました。特に、米国からの若手研究者の日本滞在計画を直に会って議論できた効果は大きく、約10人の研究者がH29~30年度に掛けて数週間以上の日本滞在を伴う共同研究を行う見込みとなりました。

さらに、コートダジュール天文台の近郊の街において主に欧州の惑星研究者を招いて国際シンポジウムを開催しました(整理番号 S-2)。ここでは、星間雲や星周円盤の物理学の研究者から近未来の系外惑星観測衛星計画の責任者や次世代小惑星探査計画の責任者など、欧州の惑星科学および探査の極めて広範囲かつ最先端の研究者と日本の若手研究者の交流が行われました。

最後は、米国のヒューストンおよびアリゾナ州ツーソンでの米国版はやぶさ2のOSIRIS-REx探査機チームとの交流を主目的とした国際会議を開催しました(整理番号 S-3)。OSIRIS-REx探査機の初期観測運用スケジュールとの都合で開催日程が3月末となりましたが、はやぶさ2とOSIRIS-RExの各観測機器同士のデータ交換、共同開発、若手人材交流を議論する詳細な会議スケジュールが組まれて準備が進められている上に、実際に現場で観測運用やデータ解析に従事する若手研究者が日米両側から多数参加し、両探査計画の間での研究交流が大きく進展しました。

若手研究者の育成の項目でより詳しく述べていますが、これら一連の交流活動により「たすき掛け方式」で相手国と日本の若手研究者を相互のプロジェクトに参画させる形で交流させる枠組みを始動させることができました。また、研究会やサマースクールでの具体的な議論の場では、系外惑星観測と太陽系内の探査の研究者の間での密な学問的興味が非常によく噛み合っており、これまで交流が薄かった両コミュニティの間での学問的な連携が日本主導で実現できる状況が生まれました。

学術面での成果で詳述するように、米国のOSIRIS-RExの探査対象小惑星と日本のはやぶさ2探査機の探査対象小惑星の由来や特性の違いが明確になってきました。このような両小惑星を詳細観測したときには異なる観測結果が得られるはずです。しかし、その観測結果の違いが、小惑星の特質による本質的な違いであって、両探査機の観測装置の性能の違いに起因する見かけの差違でないことを証明することは容易ではありません。両探査機のチームが相互協力を行って、それぞれの観測装置の比較を詳細に行っておく必要があります。初の軌道上観測キャンペーンを終えたばかりのOSIRIS-RExの観測機器チームの成果報告の場(整理番号S-3)に、はやぶさ2機器チーム(他経費を含めて総勢17名)を派遣した結果、膝詰めでの詳細な議論が実現しました。これにより、観測結果の相互参照の議論の枠組みを作られたことは本交流計画の極めて大きな成果でした。


学術面での成果

平成28年度のセミナーや各種国際共同研究によって得られた学術面での成果は多岐に渡りますが、大きな成果は惑星形成理論の分野での議論の整理と小惑星探査における探査小惑星の特性解明の2つが大きいと考えています。第1は、惑星形成理論の分野においては、水氷の凝縮が起きるか否かを分ける境界線(snowline(雪線))の役割がかつての理解に比べて遥かに大きなものであることが分かったことです。かつてsnowlineは、固体惑星の岩石だけが含まれるのか氷も含まれるのかという違いによって、惑星材料物質量を大きく変化させる影響を与えることが最大の役割だと理解されてきました。この要素は、大惑星の最終質量や成長速度を制御するという意味で今でも重要です。しかし、最近の形成理論研究、系外惑星観測、太陽系探査の結果を総合的に俯瞰すると、このsnowlineの内側と外側では惑星集積を司る物理過程そのものが大きく変化しており、惑星形成理論の大きな書き換えが必要になる可能性があることが明らかになってきました。具体的にはsnowlineの外側では、古典的な微惑星形成を伴わないpebble accretion modelと呼ばれる小石サイズの固体粒子が大きな原始惑星に衝突して極めて高い速度の惑星成長を引き起こす可能性が高いことが分かってきました。
第2は、このsnowlineの外側で成長した可能性が高い小惑星リュウグウの母天体の実像をはやぶさ2探査機は解明できる可能性を持っており、その成果は太陽系科学のみならず系外惑星系形成の謎を解明する可能性を持っているという認識が日米欧の研究者の中で共有されて、様々な共同研究が開始されたことです。この認識に基づき、はやぶさ2計画とOSIRI-REx計画の探査する小惑星の特性をより詳細に比較する活動も行われました。その結果、両計画が探査する小惑星のリュウグウとベンヌが質的にはかなり大きく異なる物質進化を経た星である可能性が高いことが分かってきました。これも大きな成果です。具体的には、OSIRI-RExが探査するベンヌは、CI型隕石が加熱を受けたときに現れるスペクトルに類似したスペクトルを持ち、100km近い大きさの母天体から割れて生じた小型小惑星である可能性が高いのに対し、はやぶさ2探査機が探査するリュウグウのスペクトルはCM型隕石が加熱を受けた熱を受けたときに現れるスペクトルに類似したスペクトルを持ち、大きな母天体から来た証拠を持たないことが明確になってきました。広義のスペクトル型ではベンヌもリュウグウも同じC型小惑星であり、直径も数百mと小型である点で極めて類似していますが、両者の経てきた進化の歴史と出発物質は極めて大きく異なっている可能性が高いのです。これら似て非なる小惑星の物質をほぼ同時期にリモートセンシング観測し回収試料を同時に分析できることは、太陽系の初期進化を理解する上で極めて有効に働くことが期待されます。この理解は、研究協力体制の構築の項目で述べたような、はやぶさ2計画とOSIRI-REx計画の間の観測機器の詳細な相互校正活動を本格開始させるためにも大きな原動力となっており、日米の小惑星探査に極めて大きな波及効果を与えました。


若手研究者の育成

平成28年度の活動計画は、当初より意欲と能力をもった若手研究者を広く集めて、日本が世界を主導している小惑星探査、大型望遠鏡観測、惑星形成理論の分野の力を背景にして世界の拠点機関に送り込む仕組みを構築することに主眼を置いていました。実際、夏のPlanet2サマースクール(S-1)には60名を超える学生および若手PDが参加し、既存の研究プロジェクトの枠を超えて研究者の層を増すことに成功しました。ここで集めた日本人若手研究者と、Planet2サマースクール(S-1)に講師として海外拠点から派遣してもらった若手の気鋭研究者たとの間に広い学術上の交流が開始できました。ここで始まった交流は、その後の日本(宇宙科学研究所)でのHayabusa2 Joint Science Team (HJST) Meeting(S-4),欧州(コートダジュール天文台)での惑星科学国際シンポジウム(S-2)、米国(アリゾナ大学)でのOSIRIS-REx Science Meeting(S-3)での個別の機会での議論に引き継がれて、具体的な国際共同研究や若手派遣計画に進展しました。具体的には、欧州の系外惑星観測プログラムへ理論に強い日本人若手研究者の参画要請が多数あったことに加え、小惑星探査の経験の浅い欧米の研究者から米国や欧州の次世代計画へ はやぶさ探査機やはやぶさ2探査機での経験を持つ日本の若手研究者(博士課程学生を含む)へ強い勧誘があったことは予想を超える収穫でした。
これらの機会によって醸成された若手日本人研究者と海外研究者の間の共同研究の機運を実体化させるため、学会のネットワークを通じて若手からの自己派遣による小惑星探査に関わる国際共同研究の申請書を公募したところ、リモートセンシング観測から回収サンプルの精密分析まで幅広い分野の国際共同研究提案があり、10件の若手派遣計画を平成29年の実施計画書に反映できるところまで進められました。
逆に、欧米からの若手研究者と上記のセミナーの機会において直に会って日本滞在計画をについて議論した効果も非常に大きいことでした。特に、Rosetta彗星探査計画で小天体探査の世界最先端に立った欧州は独自の小惑星探査計画を全く持っておらず、日本の小惑星探査への若手派遣に非常に強い関心を持っていることが分かったことも大きな成果でした。さらに、米国はOSIRIS-RExより数ヶ月前に小惑星に到着し1年ほど前に試料採取を行う日本の はやぶさ2探査計画を自国の若手研究者育成の場と捉えており、自国の若手研究者派遣と日本の若手研究者の受入れに大変積極的です。議論の結果、約10人の研究者がH29~30年度に掛けて数週間以上の日本滞在を伴う共同研究を行う見込みとなりました。
これら一連の交流活動により、計画2年度以降において「たすき掛け方式」で相手国と日本の若手研究者を相互のプロジェクトに参画させる形で交流させる枠組みを始動させることができたことが、若手研究者育成面での最大の成果です。


その他(社会貢献や独自の目的)

はやぶさ2探査機は、日本国内で極めて高い知名度を誇っており、一般国民は高い関心を持っています。この探査機がどのような成果を出してくれるのか、世界的にも重要な位置を占めているのか、様々な期待と共に見守ってくれている状況です。本事業では、NASAのOSIRIS-REx計画との連携を進めている実績があるため、国際共同研究に根ざした広報活動を展開できる余地があります。平成28年度には、東京ドームのTeNQの展示スペースに、はやぶさ2やOSIRIS-RExの探査データをかなりリアルタイムに近い形で表示して、一般国民に発信する企画の検討を開始しました。