平成29年度

活動実績


シンポジウム・セミナー・ワークショップ

出版物、論文など


系外惑星探査~地球外生命をめざして

河原 創  東京大学出版会

共同研究

国際連携小惑星探査による初期太陽系内における揮発性物質の進化過程の調査

Investigation on the evolution processes of volatiles in the early Solar System based on joint international asteroid explorations

系外惑星系の多様性の探究

Quests for diversity of exoplanetary systems

初期惑星系における物質の起源と循環:太陽系科学および系外惑星科学の相乗効果

Origin and circulation of materials in early planetary systems: Synergy between the solar and extrasolar system sciences

研究協力体制の構築

日米欧の小天体探査に掛かる国際研究協力体制の構築については、以下の3つの異なる階層で大きく進展しました。

1)日欧米の3探査機の間で連携した科学観測運用の準備

2)取得探査データの連携解析の準備

3)取得探査データの解釈に必要な室内実験や理論計算の国際共同体制での実施


まず、(1)の連携観測運用の準備については、小惑星形状モデルのチーム間での国際連携の活動が際立ちました。火星や金星など極めて球形に近い大きな普通の惑星と異なり、小天体の場合には不定形状をしていることが通常です。これは、小惑星探査機を誘導する宇宙工学者の頭を常に悩ませる問題であり、米国でも欧州でも近年の小天体探査の進展と共に、不定形状を如何に迅速に正確にモデル化(数値化)して、探査機誘導に反映させるかが重要な課題となっています。これは各国の宇宙技術者の腕の見せ所ではあるが、純粋に科学探査のためだけに発展してきた技術であるため、機密扱いにならず各国の研究者が情報を自由に交換して相互参照しています。今回の はやぶさ2,MASCOT, OSIRIS-RExの場合には、データや情報交換より一歩進んで、形状モデルチームがお互いに相手チームが大変な時期に応援に駆けつける体制を構築できました。このような基幹技術に掛かる研究者の相互乗り入れは、日本が世界の太陽系探査の中で中核的な役割を果たし続ける上で大きな意義があります。同様に、科学機器の相互校正の活動も大きく進展しました。

次に、(2)の取得探査データの連携解析の準備については、若手研究者の交流を通じた軌道上データと着陸機データの間の連携解析の枠組みができたことが大きな成果です。詳細は、以下の若手研究者育成 で述べますが、日本の若手は、母船はやぶさ2のリモセンデータを持って欧州の宇宙機関に飛び、欧州の子機であるMASCOTのデータ解析に参画します。逆に欧州の若手はMASCOTのデータを持って日本に飛び、はやぶさ2のデータ解析に参画します。同様に日米の間では、はやぶさ2とORISI-RExの両プロジェクト間で若手を通じたデータと人の交換を進めました。この交換により、母機データと子機データを有機的に結びつけて解析する科学者間の連携関係やアカデミックな情報交換関係が推進され、多くのグループにおいて共同論文の執筆の段階まで至っています。この関係は、単に現在進行形の探査機からの科学成果創出に役立つだけではありません。日本の若手研究者が欧米の次世代リーダー候補たちと共に国際連携活動の中核を担う体制ができており、彼らが国際的なリーダーとして育っていく機会を与えられる体制が築かれました。

さらに、(3)の室内実験や理論計算についても本年度には、幾つかの大きな成果がありました。事業計画第1年目の成果として得られたスノーラインの重要についての認識に立脚し、隕石分析および理論計算の両面において、岩石惑星と氷惑星の中間である含水鉱物惑星(C型小惑星)の形成理論研究とその物質試料である炭素質コンドライトのスペクトル計測が国際的枠組みで進展する体制ができたことは非常に重要な成果です。無水ケイ酸塩鉱物の吸収帯が明瞭に見えるS型小惑星と異なり、C型小惑星は微小な炭素粒子の低い反射率に邪魔されて鉱物の吸収帯が非常に見えにくくなります。そのため、その太陽系進化における極めて重要な位置付けにもかかわらず研究が進展してこなかったのです。この問題を解くために、世界の様々なラボにおいて、この特徴を掴みにくい炭素質コンドライトのスペクトル特性の系統的な計測活動が本格化し、はやぶさ2およびOSIRIS-RExが小惑星に到着する頃には、新たな標準スペクトルのライブラリーが完成する目処が立ちました。このような着実な支援データの取得体制が整ったことは、探査機の科学成果創出に極めて重要な波及効果を持ちます。

最後に、以下のその他(社会貢献や独自の目的等)で詳述しますが、本事業で構築した国際ネットワークが基盤となって国際学会での日本の衛星データのアピールの場を儲けることに成功したことも体制構築における成果の一つとして挙げたいです。学術面の発信は、論文発表とならんで学会やシンポジウムでの講演が重要ですが、プロジェクトのクリティカルな時期と学会シーズンが重なってアピールがうまくいかないことが往々にしてあります。実ははやぶさ2探査も、タッチダウン運用という最も危険で且つ重要な観測フェーズを迎えている時期に、米国天文学会および米国地球物理学会という大規模な国際会議が開かれます。この時期には探査機の科学運用の中核を担う研究者は海外出張に行く余裕がないのが現実です。この状況の解決のため、はやぶさ2計画に参画する地元米国人研究者および欧州の研究者からロジスティックス面での強力な支援の申し出があり、複数の国際会議で特別セッションを提案することができました。彼らの主張は、日本が世界で初めてC型小惑星サンプル回収探査を行うことは大変尊いことであるので、世界で最も大きな米国の両学会で是非ともアピールして欲しいとのことでした。世界への発信もさることながら、探査機の運用の成功を第1に考えねばならない日本人研究者の困難をよく理解して、米国研究者は裏方に徹するから、との申し出でした。困ったときに助けようという真の協力関係が築かれつつあることを実感しつつあります。

学術面の成果

本年の国際交流事業によって得られた学術面の成果は、主に3つあります。一つは、はやぶさ2探査に直結する太陽系内の小天体に関する成果。二つ目は、系外惑星観測に関する成果。三つ目は両者を繋ぐ惑星形成論における新しい知見です。

第1の小天体に関する成果は、主に2018年度に日米欧の探査機の観測のピークを迎える小惑星に関する知見です。本年度の主目標は日欧米の連携データ解析体制の構築でしたが、学術面でも大きな成果がありました。一つは、本事業で構築された国際ネットワークを活かして小惑星リュウグウの世界各国の観測データをコンパイルできたことと、各国の大望遠鏡による追加観測が実現したことです。以前には、Cg型から狭義のC型のスペクトルを持ち、米国のOSIRIS-REx探査機が目指す小惑星ベンヌとは明らかに異なると考えられてきた小惑星リュウグウでした。しかし、本年度に得られたデータを解析すると、そのスペクトルの分布域は以前の推定よりずっと広く、ベンヌが属するB型からCb型までカバーすることが判明しました。両小惑星は軌道力学的には極めて類似しているため、スペクトル型の一致は、両小惑星の母天体が同一である可能性が出てきたのです。さらに、このスペクトル型は、ポラナ族と一致しており、ポラナが両小惑星の母天体であることを示唆します。また、ポラナ族は、地球に衝突する小天体を最も多く供給する小惑星内帯にある最大の低アルベド小惑星族の母天体です。そのため、ベンヌとリュウグウの表面詳細観測とサンプルリターンは、地球史において最も多くの水や有機物を供給した母天体の起源と進化を解明することになるかも知れません。

加えて、リュウグウ表面のスペクトル観測の解釈のために、世界各国で低アルベド小惑星の対応物だと考えられている炭素質隕石のスペクトル計測が盛んに行われました。その結果、加熱脱水反応、宇宙風化現象、粒子サイズなど様々な過程によって同一物質が、見かけのスペクトルをどのように変化させるかの知見が紫外域から可視、近赤外までの広い波長領域にわたって得られました。これらの結果は、上記のリュウグウのスペクトル多様性と比較することが可能です。具体的には、宇宙風化はリュウグウの始原物質候補であるマーチソン隕石に代表されるCMコンドライトから、リュウグウのスペクトルを再現することはできない一方で、加熱脱水の進行度と粒子サイズの違いによるスペクトルの変化は、リュウグウの望遠鏡観測結果で見られたトレンドを非常によく再現することが分かりました。これは、リュウグウに探査機はやぶさ2が到着したときのデータ解析に大変有用な情報であり、大きな成果です。

第2の系外惑星観測に関する成果は、次世代の系外惑星観測衛星が目指すべきサイエンス面のビジョンが見えてきたことです。しかも、それがJames Webb Space Telescope (JWST)のような巨大な観測衛星ではなく、超小型衛星によるポイントを絞った小型計画で実現できる可能性が高いことが分かったことが非常に重要です。

現在の世界の系外惑星観測では、技術的な点で検出の比較的容易な低質量の恒星(赤色矮星)まわりの惑星に注目が集まっています。それらは、惑星系の構造や惑星環境に関して太陽系とは大きく異なるが、原始惑星系円盤内での物質移動や大気散逸等の惑星の進化、多様な環境下にある惑星大気の特性等に関する新たな知見をもたらし続けています。そうした知見は、太陽系および地球の形成過程の理解に欠かせないものです。一方、大きな多様性の中で、太陽系、そして我々をもたらした要因を究明するためには、太陽系に非常に似た惑星系の間で見られる差異を把握することが重要です。特に、ハビタブルゾーンの惑星だけでなく、木星のような巨大ガス惑星の存在や、太陽系で言えば小惑星帯が位置するスノーライン付近に存在する天体に関する情報が鍵となります。

しかし、赤色矮星まわりの惑星系の検出とは対照的に、太陽のようにサイズの大きなG型星では、惑星と中心星のサイズ比が小さく、トランジット観測による惑星検出が難しいです。さらに深刻なことは、太陽系のように広がった惑星系の場合、公転周期が長いためトランジットの機会が少なく、惑星は検出が大変です。これらのことがネックとなり、観測計画の企画段階で足踏みをしているのが世界の現状です。

このような中にあって、本事業に参画する研究者は、相手国研究者との連携の基に米国の系外惑星観測衛星Kepler(2013年打上)およびTESS(2018年4月打上)、スイスのCheops(2018年打上げ予定)、欧州宇宙局のPLATO(2026年打上予定)の研究グループとの交流を通じて、先行する彼らの衛星計画の問題点および改善点をつぶさに考究することができました。その結果、日本が打上げるべき次世代系外惑星観測衛星のあるべき姿を描くことができました。具体的には、Keplerのように遠方にある暗い星でなく、TESSのように赤外光で光る星でなく、Cheopsのように天球の狭い領域にある星のみでなく、PLATOのように太陽型星であるがハビタブルゾーンに止まることなく、天球全体に分布する明るい太陽型星を小型軽量の広角望遠鏡で長期間計測することが重要であることが判明しました。このような望遠鏡の観測には、TESSやPLATOのような300~500kgの小型〜中型衛星を打上げる必要はなく、予算が格段に少ない50kgの超小型衛星で十分です。さらに、米国のTESS計画以降は欧州のPLATO計画まで8年以上も全天サーベイ型の系外惑星観測衛星計画は存在しません。このような時間的なギャップを埋めてTESSの寿命が尽きる前(おそらく2023年頃〜)に打上げ、PLATOが打上がるまでに明るい星の全天サーベイを行うことは、太陽系近傍恒星の周りの長周期惑星の検出に極めて有効です。

さらに、このような超小型衛星に搭載すべき小型カメラは、はやぶさ2探査機搭載のカメラと同クラスであるため、小天体探査グループの研究者と系外惑星科学グループの研究者の協働により機器開発面の詳細技術検討からサイエンス面の共同研究まで一気に進める状況です。

第3の成果は、両者を繋ぐ惑星形成論における新しい知見を得たことです。水惑星やハビタブル惑星の形成に関する古典的な研究では、ハビタブルゾーン付近での現象にフォーカスされてきました。しかし、近年の系外惑星観測やALMAに代表される原始惑星系円盤の観測から明らかなように、含水小物体や惑星は原始惑星系内を大移動します。また、JUNOの観測結果からも示唆されるように、木星はその形成期に、ガスだけではなく、氷物質を広範囲から集めたようです。したがって、惑星系全体のダイナミックな形成過程の中で、地球のようなハビタブル惑星の形成を位置づける必要があります。こうした中、ニースモデルやグランドタックモデルなど巨大惑星移動を考慮した(京都モデルに代わる)新たな太陽系形成シナリオを提案したフランス拠点機関コートダジュール天文台や、ペブルとよばれる小物体の集積を惑星成長過程に組み込み新たな惑星形成理論を構築しようとしているスイス拠点機関ベルン大学の研究者らとの研究交流、さらに、11月末に東京大学で主催したワークショップ「Planet Formation around Snowline」での欧米の研究者らとの交流によって、太陽系で言えば現在の小惑星帯に位置したと考えられるスノーラインで起こる物理化学プロセスが、惑星系形成、さらに地球の水や有機物の由来を解明するための鍵を握ることが明確になりました。

若手研究者育成

太陽系小天体探査分野の若手研究者の海外渡航については、なるべく門戸を広げるために前年度内に公募を行いました。本年度の審査で採用した12名の学生および若手PDが相手国への渡航を行いました。事業代表者から予め選んだ系外惑星関係の若手研究者3名と併せて、ベルン大学、アリゾナ大、アリゾナ州立大、カルフォルニア工科大、ブラウン大、ジョンズホプキンス大、月惑星研究所、ニース天文台、パリ大、ドイツ航空宇宙局など宇宙研究の最先端の研究機関に、それぞれ2週間〜1ヶ月の比較的まとまった期間の滞在をしてもらいました。また、ドイツ航空宇宙局、ニース天文台、パリ大学、月惑星研究所、カリフォルニア工科大から6名の学生および若手PDが宇宙科学研究所および千葉工大に1〜3週間程度の滞在をしました。日本の若手は、母船はやぶさ2のリモセンデータを持って欧州の宇宙機関に飛び、欧州の子機であるMASCOTのデータ解析に参画します。逆に欧州の若手はMASCOTのデータを持って日本に飛び、はやぶさ2のデータ解析に参画します。同様に日米の間では、はやぶさ2とORISI-RExの両プロジェクト間で若手を通じたデータと人の交換を進めました。この日欧および日米の間での相互交換滞在により、以下のような成果が得られました。

まず、日欧の間で軌道上データと着陸機データの間の連携解析の枠組みができました。はやぶさ2探査機(母機)は、欧州が提供するMASCOTと呼ばれる小型着陸機(子機)をミッション期間中に小惑星リュウグウの表面に下ろして連携運用を行います。しかし、母機データと子機データを有機的に結びつけて解析する科学者間の連携関係やアカデミックな情報交換関係は、ハードウエア運用の多忙さの影響のために進行が遅れがちでした。しかし、本年度の若手研究者交流により日欧の研究者間でのサイエンスの議論が大きく進展し、探査機運用を超えた具体的なサイエンスの研究計画が立てられました。小惑星到着を目前にして、最新の研究成果を元に探査機データのサイエンス面での国際連携研究が具体化できたことは非常に大きな成果です。その際、日欧の若手研究者がサイエンスの中核を担う形で国際共同研究が進んでいることは、若手育成の観点から非常に好ましい状況です。派遣以前には、単に「所属する探査チームのデータを担いで来訪する若手研究者」という立ち位置であった若手が、年度末には相手国の中堅研究者から一人前の研究者として認められています。

同様に、米国に派遣した若手メンバーの多くは、米国版はやぶさ2と呼ばれるOSIRIS-RExのデータ解析や機器校正の活動に中核メンバーとして活躍する下地ができました。

派遣した若手研究者多くが共同論文の執筆で非常に良い成果を出しています。これは、各若手研究者が論文数を増やすという小さな波及効果に留まらず、英語のハンディのないネイティブの研究者がどのように論文を書くのかを肌身を持って感じ取ってもらい、自分の論文執筆スキルの向上に反映することを指します。ほんの3週間程度の滞在であっても、その前後にスカイプで週例打合せを行って、研究の始動から一流の国際専門誌に投稿、受理までをほんの半年で済ませてしまう若手などが出てきており、彼らのスキルアップに対する波及効果は大きいです。彼らが獲得した論文執筆のスキルは、はやぶさ2のミッション期間において科学成果を創出するに当たって大変大きな影響を与えるであろうし、その後長期間に渡って大きな財産になるはずです。

その他(社会貢献や独自の目的等)

平成30年度のはやぶさ2の小惑星到着および試料採取タッチダウンを目前に、国内外の報道機関への情報発信する体制について、本事業に開催された研究会および国際交流研究で活発な議論が交わされました。また、TeNQなどの組織を利用して具体的な発信情報の検討およびその体制の準備を進めることができました。

さらに、これらの国際交流の議論および準備作業の過程で、日本および相手国が行ってきた報道実績を相互紹介し、理解を深めたことは大きな収穫でした。例えば、ESAのROSETTA彗星探査では、準リアルタイム報道に踏み切ったことが非常に重要な判断であったこと、などが研究者の中でも共有されました。これらの議論は、平成30年度の情報発信のあり方に大きな影響を与えると期待されます。

また、国際的に影響力の大きな惑星科学関係の国際学会が開かれる時期には、はやぶさ2探査機のタッチダウン運用が佳境を迎えており、中核メンバーの学会派遣は難しい困難な事情があることを相手国参加者と共有することができました。この問題を解決しようとの意図で、相手国参加者(主に米国およびフランス)から学会会場において記者発表やライブ中継イベントを行わないかとの提案をロジスティクス面への強い支援を添えて申し出がありました。これにより、はやぶさ2探査機が最も大変で且つ旬な時期に運用と観測に従事する中核研究者に過度の負担をかけずに、海外への報道発表ができる目処が立ちました。これは、日本の惑星科学を世界に発信する上で極めて大きな布石です。はやぶさ2は、世界初のC型小惑星サンプル回収探査であり、その後を米国のC型小惑星サンプル回収探査機OSIRIS-RExが2ヶ月遅れ(小惑星到着日)で追っています。このように日本が世界の先陣を切って科学探査をしている姿が世界的に報道されれば、必ず国内報道にも反映されます。このような国際競争の報道は科学の本義とは一線を画しますが、子供達に「自分達も世界の第一線で活躍できる」との夢を与える契機となったり、宇宙科学をはじめとして科学への興味を持ってもらう契機となったりする可能性は高くなります。